ピーター・リンチの株で勝つ【投資本と教訓】

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ピーター・リンチは1977年~1990年にマゼラン・ファンドのマネージャーとして年間+29.2%のリターンを達成した凄腕のファンドマネージャーとして有名です。1990年に発行された「ピーター・リンチの株で勝つ」はそんなリンチが一般のアマチュアであっても株式に取り組むことができるということを示した名著です。

「ピーター・リンチの株で勝つ」

サブタイトルは「アマの知恵でプロを出し抜け」になっており、アマチュアにできることでプロのパフォーマンスを超えることは可能、というのが本書のテーマです。

特に個別銘柄の発見、選定について、専門家でない人間が取り組むことは難しいと思われがちですが、アマチュアでも取り組んでいける方法を解説しています。

注意

引用部分以外は、一部内容を読み替えて記載しています。正しく理解するためには書籍をご購読ください。

なぜプロにアマチュアが勝ちうるのか

例えばサッカーで素人がJリーガーに勝つことは無いですが、株で言えばプロにアマチュアが勝つことがあり得るそうです。

理由として、プロの行動の制約があるためです。

具体的には

  • 顧客の意向に沿ったポートフォリオマネジメントが必要
  • そもそも、特定の銘柄しか買えない制約がある
  • 買うボリュームについての縛りがあるケースがある(例:ポートフォリオの最大5%まで、など)

などがあります。そうなると自由にトレードできるアマチュアのほうが条件的に有利であり、その差が単純な知識・経験の差を上回るのであれば、アマチュアのパフォーマンスが勝ることもあり得ます。

先ほどのサッカーの例でいうと、「Jリーガーは両足を縛りつけた状態でプレーしなさい」という状態では勝てないと思います。

そこまで極端な制約ではないかもしれませんが、プロは同じ自由度では取り組めていないことを活かすべきで、特に「急成長株」を自由に購入できることがアマチュアのメリットと言えます。

本書まとめ:アマチュアの株の選び方

自分の良く知った分野に注目し、探す

  • 生活や仕事をするうえで主婦であれば買い物をしていたり、医者であれば薬品や機械の営業を受けたりと何らかの部門のユーザーやプロである
  • 自分の良く知った分野であれば、決算の資料やアナリストが注目する前(株価が上昇する前)に、商品のヒットや業界の変化に気づける
  • 気になった商品の会社が上場していないか確認する

気になった株をもう少し確認してみる

  • 決算書に目を通す
  • あなたが気になった商品はその会社にとって大きな売り上げを占めるのか(例えば大会社の一部門であれば株価への影響は少ない)

上記は特に以下に示す6分類の「急成長株」に有効な手法です。決算書に目を通すといっても、くまなく見るというより、収益やバランスシート、販売内容の確認などを見るということで、ほかの買い物をするときはじっくり考えるのに株を買う際は雰囲気で買うことを戒めています。せめて冷蔵庫を買うくらいの時間を費やしてほしい。ということです。

街で見かけたお気に入りのあの化粧品が例えばP&G(大きな会社)の一商品で、仮に大ヒットしても巨大な企業の中で売り上げ・利益貢献度が低い、というようであれば、あなたの思惑通り商品がヒットしても残念ながら株価への影響は低いことになります。

株式の6分類

様々な株式は以下6つの分類に分けられる。

分類特徴
低成長株大きくて古い企業の株式。もともとは急成長株だったが停滞しているケースがある。配当が高く安定している。70~80年代のヒューストンインダストリーズなど。
優良株巨大企業だが、年率10~12%成長で、低成長株を上回る成長をしている企業の株式。順調な株価推移を見せるが、10倍にはなりにくい。安定して利益を出すため不況に強い。70~80年代のコカ・コーラ、ブリストルマイヤーズ、プロクター&ギャンブルなど。
急成長株年に20~25%の成長をし、うまくいけば10倍、200倍などの株価成長をする企業の株式。低成長産業の中にもシェア獲得により存在することがある。資金繰りに無理をしがちな若い企業も含まれ、多くのリスクが存在する。70~80年代のウォルマートなど。
市況関連株売上と利益が循環的に上下する企業の株式。自動車、航空、タイヤ、鉄鋼、アルミ、化学など景気に左右される。好景気の時は優良株を上回る株価パフォーマンスをする。購入・売却はタイミングがすべてになる。
業績回復株突発的な事故などで大いに痛めつけられ、不振の状態を経由し、立ち直った企業の株式。80年代のフォードなど。相場一般と無関係に極めて急速に回復することが投資の醍醐味。
含み資産株ウォール街の気づいていない資産を持つ会社の株式。
一つの銘柄が、時間を経て別の分類に推移していく

半導体のTSMやAMDも急成長株の先頭にいたが、この時期は市況関連株とみなされていたように、同じ銘柄でも上記の分類の中で時間経過とともに行き来、変更をしていく。

2000年~2020年頃で言えばアップルは急成長株→優良株などへ変化していきそう。ということです。

チェックリスト(タイプ別の買い時)

全般

  • PER 自社株の歴史的に見て低いか・同業他社比で見て高いか
  • 機関投資家の持ち株比率が低いほうがいい
  • インサイダーが買っているか
  • 自社株買戻しをしているか
  • 過去最高益は?利益成長は安定的か(含み資産株以外重要。)
  • バランスシートの貸借対照表は負債資本比率で健全か
  • 流動資産比率は(流動資産16ドルなら、それ以下には下がらない)

低成長株

  • 配当が常に払われているか、増配が安定的か
  • 配当性向が低いほうが余裕がある

成長株

  • 配当が常に払われているか、増配が安定的か
  • 配当性向が低いほうが余裕がある

優良株

  • PERは割高でないか
  • 将来の収益を損ねる多悪化リスクはあるか
  • 長期的な成長率から最近鈍化していないか
  • 長期保有するなら過去の低迷期をどう乗り切ったかでリスク判断する

市況関連株

  • 在庫・需給関係に注意し、新規参入他社があると不利である点に注意
  • 景気回復後半にはPER悪化リスクあり
  • 身近に知っている商品があると理解に有利(例:車の寿命を考えると4年間の販売サイクルがある)など

急成長株

  • 会社に利益をもたらす商品がその会社の主力品か(販売構成比が高いか)
  • 最近の収益の成長(20~25%が好ましく、それを超えると警戒する。)
  • 成功した事業の拡大が可能か(ある都市で成功したことがほかの都市にも展開可能か など)
  • 株価が成長率にふさわしい水準か
  • 拡大のスピードが上がっている(3店舗増→5店舗増など)か減っているか
  • 機関投資家の持ち株比率が小さく、アナリストの注目が低いか(低いほうが値動きしやすい)

業績回復株

  • 経営リスクはないか(現金は十分で、債権者からの攻勢に耐えられるか)
  • 倒産したとして、株主に何が残るか
  • どのような方法で業績回復を図っているか(不採算部門のEPSがマイナスで、整理することで早期に黒字化するなど)
  • 業界自体の景気が回復しているか
  • 経費削減が行われているか

含み資産株

  • 資産価値・含み資産はどのくらいか
  • 資産から差し引かれる負債はどのくらいか
  • 会社が抱え込む新たな負債はないか

チェックリスト(タイプ別の売り時)

全般

  • 経済外的要因にはあまり注意を払わない(原油下落時の石油サービス企業への影響はあるが、ほかの企業への影響はない)
  • 買い理由を考えることで売りタイミングがわかる

低成長株

  • あまりリンチ自体が買っていないので手助けできない
  • 30~50%の値上がり
  • ファンダメンタルズの悪化

優良株

  • PERがその銘柄(セクター)に対し高すぎる場合

市況関連株

  • ベストはサイクルの終了時だが、誰にもわからない。
  • 市況関連株に関連する防衛株が増益時に売られる(サイクル研究者が売った)などをもとに判断する
  • 次善の策として、コストの増加や売上成長以上の在庫の増加が確認された場合
  • 市況が悪化した場合
  • その銘柄にとっての競争が激化した場合

急成長株

  • 成長の鈍化
  • PERの行き過ぎ(基本的に急成長株自体は高いPERになるが、将来達成しうる利益では回収不能なレベルでのPERの行き過ぎについてはリスク)

業績回復株

  • 業績が転換を超えたとき

含み資産株

  • 乗っ取り屋が現れ、資産価値に気づき、株価が上がるのを待って売る

教訓

個人的に気になった部分を抜粋、説明します。

10月19日のマーケットにびっくりしても、その当日あるいは翌日にびっくりしても、その当日あるいは翌日に売る必要はないのである。

中略

実際、その年の12月からマーケットは堅調に上げて、いま1988年6月には400ポイント、つまり23%以上戻している。

「ピーター・リンチの株で勝つ」ダイヤモンド社

第一のルールは、もはやプロのいうことに惑わされるなということである。

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プロも頻繁にミスをすること、買い銘柄だけでなく売買タイミングも知る必要があること、初心者でも良い情報を得ることができることが理由です。

少し意識的に自分の仕事や近所の商店街などで起こっていることを見るだけで、ウォール街が気がつくよりずっと以前に、すごい銘柄を見つけることができる。自分の働いている業界の変化や、消費者としての情報を意識的に利用することによって、株式投資に成功するアマチュア投資家が結構いるのである。

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10倍株(テンバガー)のような銘柄がポートフォリオにあることで、パフォーマンスが大きく向上するが、それらをどのように発見するか。自身が消費者だったり詳しく知っている分野においてのほうが、プロの推奨銘柄よりも早く、それらの銘柄・企業の成長ポテンシャルに気付けることが多い。

むしろプロはそれらの銘柄が成長、成熟後に気づくケースが多く、成長の起点において気づくのは純粋な消費者としての時にシビアな目線である。

一方、ただ自分がいいと思い、買った商品が株式市場に上場していたら買うべきかというと、そうではなく、良いと思った商品の競合商品や競合企業についても分析したうえでベストであれば買うべき。

よく考えてみると、株式投資は7枚のカードでするスタッド・ポーカーというより、70枚くらいのカードでするようなもので、もし10銘柄も持っていたとするなら、70枚ずつ10人分のゲームに参加しているようなものだといえるだろう

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投資と投機の境目は難しく、不確実性を伴う株式への投資はギャンブル性があるといえる。しかし、それには見えている情報と、見えていない情報があり、見えている情報をもとに見えていないカードを推測しつつ勝負するスタッド・ポーカーと類似したギャンブルである。

見えているカードがわかるのであれば、例えば自分の手札がエース3枚であれば、ポーカーに勝つ可能性は高いかもしれないが、運悪く負けることもあるかもしれない。ただし、分の悪い賭けではなかった、という理解ができて、次に臨めるかどうかが大事。

(1)家を持っているか (2)金が必要か (3)株で成功する資質があるか

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(1)の家を持っているか、については不動産投資のほうが米国では成功率が高い。

理由①:そもそもの不動産価格が上がりやすい背景

理由②:真剣な消費者である自宅選定において、まったく魅力のない物件を買うリスクが低い

(2)は余裕資金で行う必要がある。ということ。

(3)株で成功する資質

資質に忍耐強さ、自主性、常識、苦痛についての耐久力、こだわりのない自由な思考力、利害に対して超然としていられる強さ、完全な情報がない中で決断する力、自分が持つ変な信念や思い込みを除く必要性

を挙げている。また、IQは高すぎず(上3%には入らない)、低すぎず(下10%ではない)くらいがいい。

※天才過ぎると株の動きが想像より単純で逆に裏を突かれる、あまりに物事の道理がわからないのも難しいが、ほとんどの人にチャンスがある。

そこで私のカクテル・パーティー理論はどうだろう。

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カクテルパーティーにおける大衆の動向と相場についての関係を以下のように示している。

①第一段階 上昇相場が若い時 誰も株の話をしない

②第二段階 一部の人が株式投資に興味を持ち始める(第一段階より市場は+15%くらいだが、まだ一般の関心は薄い)

③第三段階 どの株を買うべきかの話題がひっきりなしにおこる(第一段階より市場は+30%上昇)

④第四段階 人々がどの株を買うべきかを教えたがる(相場はピークで下がるしかない状況)

私としても、もちろん相場や景気の予測をしたいが、それが不可能なので、ビュフェ(バフェット)のように儲かる会社を探すことで満足しているのである。

私はひどい相場で儲けたこともあれば、その逆もある。私の10倍株のいくつかは、実にひどい相場の時に急上昇している。

「ピーター・リンチの株で勝つ」ダイヤモンド社

これまではっきりしていたことは、私は常に「ストップ・ロス」を嫌ってきたということであろう。

中略

とにかくストップ・ロスによってあなたはタコ・ベルを10回以上も失うことになっただろう。

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リンチの考えでは、上値や下値めどをつけて自動的に売買することには反対しています。ストップ価格(損切価格)を付けた後に株価が上がることは不思議なほど多く、ファンダメンタルズと株価が逆行することも多いので、「-10%で損切り」などの決めつけの売買をすべきではないと考えているようです。

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